東海道新幹線は1964年10月1日に開業した最初の新幹線であり、世界初の高速鉄道です。
なぜ世界初の高速鉄道が必要になったかというと、1964年の東京オリンピックを見据えていたことから日本の鉄道大国っぷりを世界に見せつけるためともいわれていますが、それ以上に東京・名古屋・大阪の世界トップ50都市圏が3つ並んでいる過密地帯を結ぶためかなりの乗客が見込めるためです。
それゆえ東海道新幹線では開業当初12両運転だったものの16両運転可能な設計にしており、開業から6年後の1970年には当時最速達の「ひかり」が原則16両運転に増車しています。
そんな東海道新幹線ですが1989年以降全駅停車の「こだま」も含め全列車が16両で運転しています。なぜでしょうか。
なぜ東海道新幹線では16両編成を運転しているのか
そもそも新幹線で16両編成は長い部類に入ります。
東京を発着している上越新幹線・北陸新幹線は12両編成ですし、東北新幹線も基本10両編成で山形新幹線・秋田新幹線編成連結時に17両運転を行うくらいです。東京に乗り入れない九州新幹線・西九州新幹線は8両や6両で運転しています。
そんな中東海道新幹線は全列車16両固定編成で運転しています。これは東京・名古屋・大阪の三大都市圏を結んでいるため、乗客がきわめて多いためです。
なぜ「ひかり」「こだま」も全列車16両運転としているのか
もっとも東京・名古屋・大阪の三大都市圏の移動によく使われているのは東海道新幹線の中でも最速達列車「のぞみ」です。
「のぞみ」は通年を通して東海道新幹線で利用者が多い列車で、ゴールデンウィークやお盆、年末年始の多客時には最大毎時12本で運転するほどの大盛況ぶりを見せます。
一方これらの多客時でも「ひかり」は毎時2本、「こだま」も最大毎時3本しか運転しませんから、「のぞみ」と比べて列車本数が少なくなっています。
このため東海道新幹線の車両が一番運用するのは「のぞみ」なので、「のぞみ」に合わせて共通運用を組みやすいように全列車16両運転としているとする人が多くいます。ただ、同じく「のぞみ」が一番運転本数が多い山陽新幹線で「こだま」が主に8両編成で運転する理由が見当たりませんし、そもそも2020年3月14日東海道新幹線ダイヤ改正まで車種によって性能が異なり東京~新大阪間で所要時間が異なっていたことから専用運用が存在していたほか、S work車両の設定で座席数の違う列車も運転、みどりの窓口に発売制限すらかけていました。とても共通運用が組めるようにすることは全列車16両で運転する理由にはなりません。
では東海道新幹線で全列車16両で運転する理由なのでしょうか。
もっとも通常時は「こだま」は空いています。毎時2本の定期列車がありますがはっきり言って8両編成でも十分運べるでしょうし、「ひかり」も12両程度で運べるといわれればそうです。ただ多客時はどうでしょうか。
そもそも「のぞみ」はたいていの日で終日毎時6本程度を運転していますが、多客時は最大毎時12本の運転にまで増やすことができます。ただ「ひかり」は通常時と同じ毎時2本、「こだま」も通常時と同じ最大毎時3本しか運転していません。結果的に「のぞみ」は1時間当たりの旅客量は断トツで多いのですが、「ひかり」「こだま」は運転本数が少ないがゆえに1本の列車あたりで割ると多客時は「ひかり」「こだま」各列車は「のぞみ」以上に混雑するのです。つまり「のぞみ」より混んでいる「ひかり」「こだま」16両でなければは運びきれないのです。
もっとも運びきれないなら増発すればいいのではないかという人もいるかもしれません。が、東海道新幹線は最大で「のぞみ」毎時12本、「ひかり」毎時2本、「こだま」毎時3本の合計毎時17本を運転しており、これ以上増発できる余地がありません。いやむしろこれまでいかに増発するために車両の起動加速度を上げたりブレーキ力を向上したりして東海道新幹線専用仕様の新幹線車両を導入してきたくらいですから、これ以上の臨時列車の増発ができないのです。絶対旅客量として多いのは「のぞみ」ですから臨時列車の増発は「のぞみ」に優先して充てており、1列車あたりで多少混んでいても「ひかり」や「こだま」が臨時増発する余地がもうないのです。増発できないなら最大限の両数で運転するしかなく、結果的に通年全列車16両で運転することとしています。
結論、東海道新幹線「ひかり」「こだま」は多客時に運びきれるように通年全列車16両で運転しています。もし多客時に16両編成が必要ないのなら12両や山陽新幹線のように8両に減車した方が車両製造費も抑えられますし固定資産税も安く済みますから。
なお、山陽新幹線でも2012年まで4両や6両の「こだま」を運転していましたが、多客時に運びきれないので8両に増車しています。どの新幹線も通常空いていることが多いですが、それでも長めの両数で運んでいるには多客時対応なのです。
多客時の「ひかり」「こだま」混雑分散の対策は、リニア中央新幹線の開業
では増発ができず通年16両運転を行わざるを得ない「ひかり」「こだま」は今後も未来永劫16両運転を続けるのでしょうか。
リニア中央新幹線ができた場合、静岡駅には1時間に最大毎時5本の東海道新幹線が停車すると国土交通省の試算が出ています。2023年のリニア中央新幹線開業前は通常時も多客時も毎時3本しか停車しませんから、その分「ひかり」や「こだま」が増発できているわけです。
ではなぜリニア中央新幹線開業後なら「ひかり」「こだま」を増発できるようになるのでしょうか。それは開業前まで「のぞみ」を利用していた旅客の大半がリニア中央新幹線に移るため「のぞみ」の臨時列車本数を減らすことができ、その分「ひかり」「こだま」に振り分けられるようになるからです。
ただその場合「ひかり」「こだま」は16両×毎時3本から12両×毎時5本になっても輸送力増強となりますから、多客時対応を考えても16両から12両に減車する可能性があります。
その先見の明を見据えて、東海道新幹線最新車両N700Sは16両より短い12両、8両。6両など短い編成にも柔軟に対応できるようにしています。
リニア中央新幹線が開業すれば「ひかり」「こだま」が16両から12両に減車し、東海道新幹線が全列車16両運転ではなくなるのでしょう。
結び
新幹線の車両の長さは通常時のみならず多客時も考慮した設計が必要です。東海道新幹線では多客時に「のぞみ」以上に「ひかり」「こだま」が混雑するため全列車16両編成で運転しています。
ただリニア中央新幹線開業後は多客時の「ひかり」「こだま」の運転本数を増やせることから、12両に減少する可能性はあるでしょう。東海道新幹線の全列車16両運転はそれだけ多客時の旅客が多い証拠なのです。
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