JR東日本は2024年11月6日、プレスリリースにて2025年1月に会社分割を行い不動産事業を分離すると公表した。今回はこれについて見ていく。
鉄道は深夜早朝も終日同一運賃料金であるが
2024年現在、日本全国の鉄道は新幹線を含め終日同一運賃・料金である。しいて言えばJR東日本が東京近郊で展開しているオフピーク定期券や時差回数券などはあるが、普通運賃や料金はその日は同額であることが多い。
が、日本国労働基準法では22時~5時に働いて得た賃金は昼間の25%増しとしなければならないとしている。このため22時以降の深夜は人件費が高くなるのである。
これを踏まえ24時間営業の外食チェーン店では2023年以降深夜割増をこぞって導入、22時以降の注文は昼間の6%~10%割増しとすることで深夜加算料金を設定している。
一方1回旅行に置ける支出は2019年と2023年を比べて約10%増えているのに対し、新幹線の運賃料金はほとんど変わっていない。
これを踏まえ鉄道でも深夜加算料金を徴収することはできないだろうか。
都市鉄道での深夜割増運賃の導入はほぼ不可能
まずは昼間25分間隔以内で電車が来る都市鉄道。
深夜の主な利用客は通勤客なので定期券所持者であることが多い。このため定期券に深夜割増を課すことになる。
が、定期券はほとんどが会社経費での精算であるから経団連からの反発を買いかねない。ほぼ無理に近いだろう。
地方鉄道では実質深夜割増を行っている路線も
続いて地方鉄道。
運賃は終日同額だが、JR四国では普通列車の終列車を減便し繰り上げることで特急誘導を図り、これまでと同時刻で到着するようには特急券という実質深夜割増を払わせている事例はある。
ただ昼間にも在来線特急が走っている線区でなければ特急誘導による深夜割増は難しいだろう。
新幹線で深夜割増は可能か
そして新幹線。2024年時点では終日同一運賃料金であるが、しいて言えば北陸新幹線の東京行き最終と東京発富山・金沢方面最終を最速達で全車指定席の「かがやき」とすることで割安な自由席特急券で利用させないようにはしているほか、東明同山陽新幹線では最終列車を「のぞみ」とすることで指定席利用時に加算料金を取れるようにはしているがほぼ通年で全種別同額の自由席が利用できることから深夜割増と化しておらず、全国的に広まってはいない。
新幹線の深夜割増は可能だろうか。
新幹線の座席は大半が座席指定で列車時刻も決められている。
しかも観光地はたいてい18時にはお開きなので、その後夕食を食べても20時ごろには新幹線に乗車できることから21時以降に新幹線に新たに乗車する人は少ないし希有である。
そう考えると、21時以降に乗車駅を出発する列車に乗車し、22時以降に下車する新幹線に乗車する場合は深夜割増加算料金を徴収しても良いのではないだろうか?
新幹線深夜割増は何円加算できるのか?
では新幹線深夜割増は何円加算できるのか。
そもそも新幹線に乗るために必要な乗車券の運賃や新幹線特急券の料金は上限額を国土交通省へ認可・届出を行っている。要は認可部分については国土交通省から許可が得られなければ値上げすることができない。
新幹線は座席指定料金相当通常期530円分およびグリーン料金は国土交通省への届出のみで紙一枚で簡単に行うことができる。実際2022年4月1日より順次実施している繁忙期のシーズン区分変更による最繁忙期新設200円値上げは届出だけで変更できる座席指定相当部分やグリーン料金の変更で対応している。
一方、運賃と新幹線特急料金の530円引き(たいていの場合自由席新幹線特急料金に相当するが、「のぞみ」「みずほ」「はやぶさ」「こまち」では530円引きの額なのでこう記す)は今後3年間の赤字見込みであることを計算したうえで国土交通省への認可申請書類を作成し国土交通省の認可を受けなければ値上げができず、ハードルが高い。
このため深夜割増料金を設定するとなれば普通車指定席やグリーン料金の値上げで対応することになる。
もっとも列車指定のできない自由席は値上げできないということにはなるが、東海道山陽新幹線「のぞみ」は通常期指定席と自由席の差額が東京-広島間で1,380円、東京-博多間で1,590円にもなるにもかかわらず指定席がバンバン売れるわけだから、自由席との差額はそこまで考慮しなくてもよさそうだ。
とはいえ届出で値上げできる場合であってもあまりにも相場と法外であれば国土交通省は届出を拒否する権利がある。座席指定料金の相場は1990年~2020年ごろまでは通常期530円であったが、2020年以降JR北海道千歳線快速「エアポート」やJR西日本・JR四国本四備讃線快速「マリンライナー」が通年840円に値上げしているk十を踏まえると、どうやら310円値上げは許容されるようだ。
そうなると新幹線の深夜割増は原則最大310円程度で設定できるだろう。
310円程度の値上げであれば1つ手前の新幹線停車駅では21時になっていなかった場合でも、距離が短いが21時を過ぎてしまう駅の方が安く新幹線に乗れることが多いためほとんど問題ない差額と言えるだろう(差額逆転の可能性上がるのは東京・品川と東京・上野くらいしかないので、そこだけで調整すればよい)。そう考えれば21時以降に乗車する深夜の新幹線にて指定席・グリーン車・グランクラスを310円値上げするのは合理的ではないか。
ただ、東海道山陽新幹線「のぞみ」「みずほ」の場合はさらに値上げができる。東海道山陽新幹線「のぞみ」は2003年10月1日ダイヤ改正でのぞみ大増発を行った際にのぞみ新幹線特急料金を値下げしているが、のぞみ新幹線特急料金認可は旧来の値段が高かったころの料金に消費税税率分値上げしたものとなっている。このためのぞみ新幹線特急料金はひかり・こだまと比べ実施料金は東京-新大阪間で320円差、東京-博多間で1,060円差なのに対し、国土交通省への認可申請では東京-新大阪間1,020円、東京-博多間1,940円の値上げまでしても良いとしているのだ。この認可上限額内であれば届出の紙一枚のみですぐ値上げができるのでJR西日本は山陽新幹線「のぞみ」「みずほ」の新幹線特急料金を上限認可範囲内で2023年4月1日に値上げしている。
もし21時以降に乗車するのぞみに対し深夜加算料金を徴収する場合、のぞみ新幹線特急料金の上限料金認可Ⓣ同額まで値上げできるのであれば東京-名古屋間で最大470円、東京-新大阪間で最大800円の値上げができる。
しかも21時以降に最初に停車した駅から先の区間で深夜加算料金を徴収するとなれば同じ列車に乗車していれば同じ区間で深夜割増を徴収できることになる。
JR東海としてはのぞみのみの値上げであれば静岡県にほとんど影響をもたらさないため、政治的にも有用な手段と言えよう。
深夜割増の効果はいかに!
では深夜割増にはどのような効果があるのだろうか。
もっとも建前上は日本国労働基準法による22時~5時の労働分は賃金を25%増しにしないといけないため人件費に充てるとするものである。が、値上げによりほかにも効果がある。
21時以降に出発する新幹線が値上げとなれば、旅客は値段が据え置きの21時までに出発する新幹線に乗ろうと思うようになるはずだ。そうなれば21時以降に運転する新幹線を減便することができる。
新幹線の運転時間は6時~24時としているが、6時~24時まで目一杯新幹線を運転していたのは1987年の国鉄時代までで、上越新幹線「とき」や東北新幹線「やまびこ」の東京行き最終が23時40分や23時44分と遅いのは国鉄時代の終電が遅い名残である。
が1987年の国鉄分割民営化後は最終列車を繰り上げるようになっており、東海道新幹線最終の東京到着は23時56分から23時45分に11分繰り上がっているほか、上越新幹線新潟行き最終の新潟到着は2020年は23時56分着だったのに対し2024年3月16日ダイヤ改正より23時25分になったことで4年間で31分繰り上げている。それだけ夜間に新幹線を運転したくないし、JR東日本では今後も東北・上越・北陸の各新幹線で終列車を繰り上げるとしている。
21時以降に新幹線深夜加算料金を徴収することで夜間の旅客減を図ることができれば、新幹線を運営するJR各社としては深夜の減便につなげることができ業務効率化を図ることができる。新幹線の深夜料金加算は設定すべきではないだろうか。
結び
今回は鉄道における深夜割増について考察してみた。
新幹線の運賃をなかなか引き上げられない中、新幹線で深夜割増運賃を導入するのか、見守ってゆきたい。
関連情報:会社分割(簡易吸収分割)による事業の承継に関するお知らせ – JR東日本
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