東海道新幹線は1964年10月1日に開業した最初の新幹線であり、世界初の高速鉄道です。
が、この世のものは時が経つにつれて当初の目的と現在の目的が異なることがしばしばあります。もっとも制度面くらいなら変えてしまえば新しいものに統一することが比較的容易ですが、長い年月使用する鉄道構造物では構築の変更も難しいことから後年まで残ることもしばしばあります。
そこで最初の新幹線である東海道新幹線とそのほかの新幹線の大きな違いについて見ていきましょう。
東海道新幹線はカーブが急である
1964年10月10日開幕の東京オリンピックに合わせてつくられた東海道新幹線は、工期4年程度の突貫工事でした。このためできるだけ工期を短縮するために用地取得に難を要さないであろう半径4000メートルのR4000カーブよりきつくしました。しかもこのカーブの種類でさえ工事区によってそれぞれ決めており、宅地化が進んでいたり山が急峻な東京都、静岡県静岡以東、愛知県、京都府、大阪府内ではR2500カーブ主体、神奈川県、静岡県静岡以西、岐阜県、滋賀県内ではR3000カーブ主体で建設しました。
もっとも設計最高速度260km/hでの運転では問題はなかったのですが、高速化を行う必要があることから270km/h運転を行う必要が生じた際に大きな問題となりました。まずはカーブのカント量を全てかさ上げし高速通過できるようにする必要がありました。しかも開業当初このカント量が230km/h程度の運転までしか想定していなかったことからさらにかさ上げの必要が生じたのです。
そこでR2500カーブではカント許容量の上限を例外的に引き上げて高速通過できるようさらにかさ上げ、カント量200mmまで引き上げた(つまり左右の線路で20cmも高さの差を設ける)ことで250km/hで通過できるようにしたのです。
電力供給方式が旧式だった
また東海道新幹線は世界初の高速鉄道だったこともあり、当時在来線交流電化路線で主流だったBTき電方式を採用していました。
が、デッドセクションを多く設置する必要があったためパンタグラフの数を大きく増やす必要があり、16両編成に6つのパンタグラフを用意しなくてはならず空気抵抗が増大、高速化の足かせになりました。
そこで1990年代に山陽新幹線以降に導入しているATき電方式に総取り換えを行い、その後高速化を図っています。
全列車が16両運転
東海道新幹線は1989年以降、全列車が16両編成での運転となっています。
これは東京、大阪、名古屋の日本三大都市圏を結ぶ最速の陸路であるため、旅客量がきわめて多いためです。
これにより車両全長は404mにもおよぶ東海道新幹線ですが、1本の列車でここまで長編成の列車は日本ではほかにありませんし、世界を見ても指を数えるほどしかありません。
もっとも16両編成や20両編成の高速列車は世界ではそこそこありますが、その区間を走る全営業列車が16両以上の区間は世界を見ても日本の東海道新幹線しかありません。
「のぞみ」は毎日ほぼ終日に渡り平均10分間隔以内で来る!
全列車16両編成で来る東海道新幹線ですが、多くの旅客をさばくために運転本数も多くなっています。
通常新幹線や高速鉄道は定期列車が運転系統ごとに毎時1本から毎時2本あればいい方です。中国に至っては1日数往復しか運転しない運転系統もあるくらいです。というのも、新幹線や高速鉄道は航空機同様長距離利用主体なので、1日数便しかなくても乗ってくれるのです。また1日数便しかない航空機に勝つために増発するとしても1日20往復程度です。
最速達列車「のぞみ」は臨時列車も多いですが、たいていほぼ終日にわたり毎時6本の運転を行っておち1日100往復程度運転しています。毎時6本の運転ということは10分に1本来るということですから、それはもうそこら辺の通勤電車と変わらないだろうと。いや、東京都市圏であればそこらへんの通勤電車並みと言えそうですが、名古屋都市圏だと毎時6本も速達列車を運転している通勤電車はほとんどないのではないかと。
最短運転間隔は3分間隔!
しかも東海道新幹線「のぞみ」は、ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの多客期にはさらに増発、最大毎時12本の運転を行うことができます。
しかも停車駅数の異なる「ひかり」「こだま」も運転していることから、等間隔5分間隔ではなく「のぞみ」は最短3分間隔で運転するのです。
3分間隔でやってくる通勤電車は朝でも相当少ないはずで、もう待てばすぐ来るといっても過言ではないでしょう。もはやそこら辺の電車を上回る利便性すらあると言って過言ではなく、毎時12本運転は電車が良く来ることで有名な山手線の平日昼間の運転本数と同じです。
東海道新幹線は山手線並みの運転本数を誇るのです。
起動加速度は通勤電車並み
東海道新幹線は先述したようにカーブが多いため、最高速度が285km/hとほかの新幹線の300km/hと比べやや低めです。ただ東京、名古屋、大阪の三大都市圏を結んでいる観点上極力所要時間を短縮したいがために起動加速度を引き上げています。
世界の高速鉄道では起動加速度1,0km/h/s~1.2km/h/s程度、日本の新幹線では100系新幹線以降起動加速度1.6km/h/sが標準となっていますが、東海道新幹線では最高速度に到達するまでの時間を短縮するために起動加速度を2.6km/h/sにまで引き上げています。
通勤電車では駅間距離が短い地下鉄だと起動加速度3.3km/h/sもありますし、私鉄だと3.0km/h/s出すことが多くなっています。が、そこそこ駅間距離のあるJRだと起動加速度2.5km/h/s程度であることが多く、国鉄時代に導入した車両はさらに低くなっています。
つまり、東海道新幹線の起動加速度2.6km/h/sというのはJR在来線普通列車並みに加速がよいということになります。
もはや東海道新幹線「のぞみ」は285km/hで走る通勤電車と言えるでしょう。
なんだか最近中国や韓国で160km/h~180km/h運転の高速通勤電車が相次いで開業していますが、日本の285km/hで走る通勤電車東海道新幹線には運転本数や高速性はかないませんね。
ブレーキ制動距離は3km以内
新幹線のブレーキ制動距離は4km以内としています。これは新幹線には踏切がないため在来線のようなブレーキ制動距離600m以内より緩く設けたためです。
そもそもブレーキ制動距離とは営業最高速度から最大のブレーキを掛けた際にブレーキかけ始め地点から完全に停止するまでの距離です。
一般的な新幹線では最短4分間隔のため、制動距離4kmであれば追突することはありません(厳密には上野~大宮間で最短2分間隔運転を行っていますが、130km/hまでしか出さないため1km以内で停止できます)。ただ、東海道新幹線では「のぞみ」毎時12本、「ひかり」毎時2本、「こだま」毎時3本の合計最大毎時17本を運転できるようにするため、最短3分間隔での運転を求められます。
この最短3分間隔運転を実施するため、制動距離4kmより短い3kmとすることで運転可能としています。東海道新幹線ではJR東海独自基準でブレーキ制動距離を3km以内とすることで運転間隔を短縮しています。
もはや車両が東海道新幹線専用設計!
新幹線の車両であっても、275km/h程度であれば汎用特急車両として上越新幹線・北陸新幹線で共通設計のE7系新幹線があります。ただ両路線とも多客時でも最大毎時6本程度しか運転しませんから、起動加速度も1.6km/h/sで十分だし先頭形状もこだわらなくていいのです。
ただ東海道新幹線の車両には通勤電車並みの起動加速度と高性能なブレーキ性能とトンネルドン対策をしつつも先頭車の座席を13列配置するための特殊な先頭形状、カーブ高速通過のための空気ばね式車体傾斜装置搭載などさまざなま設計を組み込む必要でした。このため東海道新幹線用には東海道新幹線向けの専用設計が必要となったのです。
ほかの新幹線では求められず直通する山陽新幹線では機能を停止しているものもたくさんありますが、東海道新幹線の285km/hによる最短3分間隔運転実現のために専用の16両編成を開発しているのです。
車両数が多すぎてもはや汎用特急車両と化しているN700系やN700Sですが、実は計算づくの理系の研究の結晶なのです。
高速通勤電車の系譜はリニア中央新幹線に受け継がれる!
さらに東海道新幹線を運営するJR東海で品川~名古屋~新大阪間にリニア中央新幹線を建設中です。
リニア中央新幹線では500km/hでの営業運転を行いますが、東京・名古屋・大阪の三大都市圏を結ぶことから東海道新幹線同様高頻度運転が見込まれます。
また高い起動加速度も誇ることから、列車本数・加速性能ともに通勤電車の一種と言えそうです。
そうなると今度は時速500km/hで運転する通勤電車が誕生すると言っても過言ではないでしょう。
結び
東海道新幹線は、東京・名古屋・大阪の三大都市圏を結んでいることから旅客量がきわめて多く、最高速度285km/hの運転を行いながら通勤電車並みの運転間隔でやってきます。
もはや東海道新幹線は285km/hで走る通勤電車と言って過言ではありません。
東海道新幹線は他の新幹線と一線を画していると言えるでしょう。
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