JR九州は2024年7月19日、プレスリリースにて2025年4月1日に九州新幹線特急料金を改定すると公表した。今回はこれについて見ていく。
JR発足後初の新幹線特急料金の本体価格値上げへ!
今回の2025年4月1日九州新幹線特急料金改定では、2003年3月13日の開業以来初めて消費税増税以外で自由席特急料金の値上げを図る。
新幹線のきっぷは運賃からなる乗車券と新幹線特急料金からなる新幹線特急券が必要である。これまで消費税増税分の値上げを除き1987年の国鉄分割民営化に伴うJR発足以降運賃改定により新幹線のきっぷが値上げしたことがあるのは2019年10月1日JR北海道運賃改定のみ、新幹線特急料金を値上げしたことはなかった。
というのも、そもそも新幹線は踏切がなく高速で運行するわりに1列車あたりの乗車定員が多いため、低規格在来線と比べ乗客1人当たりにさばく乗務員の数が少なくて済むことが最大の特長である。実際JR東日本初代副社長山之内秀一郎氏の著書によれば、新幹線の運営費用は在来線よりも安いはずだからもっと割引できるはずだと記している(もっともアマチュア社員の新幹線に乗るには運賃と特急料金が必要だから在来線よりいやすいなんて無理なんですよ~とかほざいているとも記しているが、その後えきねっとトクだ値で在来線普通運賃より安い50%割引商品を発売しているのでこの提言はきちんと成し遂げられている)。
また新幹線は在来線特急列車より速いのでサービスの対価として在来線特急料金より割高に設定しているほか、遠距離逓減もあまり行ってこなかった。しかも新幹線路線網は1987年の国鉄分割民営化後にも大きく拡大したため料金が安い割に費用が高い在来線特急から料金は高く取れるけど費用が安い新幹線への転換が大きく進み、それぞれの線区で高速化と値上げを図ることに成功していた。このため既存の新幹線特急料金の本体価格を値上げする必要がなかった。
ただこれはあくまで大量輸送できる新幹線で高い着席率を確保できる場合の話である。山陽新幹線「のぞみ」のように東京~新大阪間では着席率が高くても新大阪~博多間では一番空いているような状況では乗客が少ないので十分な収益を上げることができず、2023年4月1日に上限認可料金(1993年~2003年まで適用していたかなり高い「のぞみ」料金)以内での値上げを行っている。
JR九州の運営する九州新幹線は6両編成または8両編成と短いこと、山陽九州新幹線「みずほ」「さくら」は新大阪~博多間では着席率は高いものの博多を過ぎると空席が目立っており収益性が低かった。しかも九州新幹線は速達列車に対して加算料金を徴収していないため値上げするなら全種別で値上げするほかない。
またJR九州は2016年10月に完全民営化したことから収益重視に舵を切っている。このため2020年からの大幅な旅客減少および2022年からの物価高に合わせ届出の紙1枚で比較的簡単に値上げできる在来線特急料金やグリーン料金から値上げ、2025年4月1日に認可が必要で手続きが煩雑な運賃と新幹線特急料金の改定を行うとした。
このためJR九州としてはすべての運賃・料金が値上げしているのだから、それに合わせて九州新幹線料金も値上げしているというというつもりなのだろう。
今回の九州新幹線特急料金改定は以下の通り。
改定日 | 特定50キロまで | 50キロまで | 100キロまで | 150キロまで 博多~新八代間 |
200キロまで | 250キロまで | 300キロまで |
2019/10/1 | 870 | 1,790 | 2,290 | 3,060 | 3,770 | 4,400 | 5,030 |
2025/4/1 | 870 | 1,920 | 2,540 | 3,420 | 4,230 | 4,960 | 5,680 |
単位:円
なお上限新幹線特急料金認可申請書類を見ると九州新幹線50km超は上限認可料金をそのまま自由席新幹線特急料金とするが、50km以内では引き続き上限未満の実施料金を設定する。
なお博多~熊本~新八代間および川内~鹿児島中央間の隣駅間特定特急料金870円は維持する。
一方で新八代~川内駅間の隣駅間の自由席特急料金は1,260円から1,390円に値上げする。隣駅間なので特定特急料金を敷いて値上げを防ぐべきだったと思うが。
九州新幹線特急料金はもともと東海道山陽新幹線や東北上越新幹線と比べても割高だったが、今回の新幹線特急料金値上げでもはや北海道新幹線に迫る特急料金値上げとなっている。
西九州新幹線、実施料金の値上げはしないが上限認可申請は実施へ!
また今回のJR九州新幹線特急料金改定では西九州新幹線の新幹線特急料金の値段は据え置くとしている。これはそもそも2022年9月23日の西九州新幹線開業により博多~長崎間を特急列車や西九州新幹線で移動すると29.3%も値上げしていたため、直近での値上げは控えたのだろう。
ただ認可申請書類を見ると西九州新幹線の新幹線特急料金上限は引き上がっている。ただあくまで上限認可のためそれより安い価格での実施料金設定は可能なことから、実施料金を据え置くことで値上げを防ぐ。
いやいや今回の実施料金は据え置いているからいいではないかと思う人が多いかもしれないがそうとも言い難い。というのも、この西九州新幹線の上限新幹線特急料金認可も出しているということは、認可されれば今後西九州新幹線も紙1枚の届出のみで九州新幹線と同額になるまで値上げできるということを意味しているのだ。
この西九州新幹線が値上げできる一番のタイミングが、西九州新幹線の博多延伸開業である。西九州新幹線の特急料金を安価にしているのは佐賀・博多方面在来線特急「リレーかもめ」との乗継を考慮したものであるためであるが、博多まで新幹線で行けるようになったら新幹線特急料金のみとなるので安価になりうる。そこでその際に新幹線特急料金自体を値上げしてしまえばやや値上げすることができる。博多延伸や山陽新幹線直通によるサービス向上の対価もあることから乗客も納得して支払うだろう。
ただ佐賀市民は九州新幹線新鳥栖駅まで自家用車で行けてしまうため西九州新幹線自体が必要ないと思っているしJR九州は値上げできるところは積極的に値上げしていることを考えると、西九州新幹線が博多延伸することなく単独で値上げする可能性もありそうだ。
結び
今回の2025年4月1日九州新幹線特急料金改定では、JR発足以降初めて新幹線特急料金の本体価格を値上げすることとなった。
今後JR九州でどのようなダイヤ改正を実施していくのか、見守ってゆきたい。
関連資料 – 運賃・料金改定の申請について – JR九州
関連資料 – 九州旅客鉄道株式会社の鉄道事業の旅客運賃の上限変更認可申請書 – 国土交通省
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