NHKは2024年10月31日、JR東日本が2024年秋に運賃改定を公表し2026年に管内全エリアで値上げすると公表した。またJR東日本は2024年11月6日、プレスリリースにて2025年1月に会社分割を行い不動産事業を分離すると公表した。今回はこれらから2026年JR東日本運賃改定について予測していく。
システム改修のため2026年3月に運賃改定実施へ!
JR東日本は2026年3月に運賃改定をするとしている。
JR東日本の運賃本体価格改定はJR東日本が発足した1987年以来一度も実施しておらず、前身の日本国有鉄道時代を含めても1986年9月運賃改定以来約29年6か月ぶりの運賃税抜価格改定となる。
JR6社ではみどりの切符を発売するにあたり運賃計算を行うにあたり別会社のJRシステムのマルスと通信している。マルスの機能は高速計算と座席予約なのだが、運賃計算は極めて煩雑であり計算式を変えるのは莫大なコストがかかるため同時に行うことが多い。JR西日本が2025年4月に大阪電車特定区間拡大に伴う運賃改定を行う際のと同時にJR北海道・JR九州が運賃の本体価格を値上げするように。
しかし今回のJR東日本運賃改定は2025年4月をずらして2026年3月に行うとしている。せっかく2025年3月にJR6社中3社が値上げすると言っているのに時期をずらしたら2度手間運賃改定費用がかさんでしまうはないか。
この運賃改定実施時期についてJR東日本はシステム改修の都合としている。もっともJR東日本はSuica利用に際し自社で作成した計算式を用いて運賃を計算してこと、またJR西日本のように電車特定区間拡大に伴う鉄道駅バリアフリー料金10円加算徴収エリア拡大による増収を図ろうとしているとも考えたが、全エリアの運賃値上げとなると話が変わってくる。
はて、2026年3月運賃改定ではJR東日本でどのような運賃改定を行うのだろうか。
新幹線を在来線と完全別線化で実キロ計算化で値上げ抑制へ!
本来鉄道の運賃改定は全区間を対象に行うため、新幹線と在来線を運営しているJR東日本が運賃改定を行うとなれば新幹線も在来線も両方値上げするはずだ。
が、新幹線は出張に使われることも多いため経団連を中心に新幹線の値上げは反対の立場をとっているカネを持つ団体が多い。実際JR東海が東海道新幹線「のぞみ」新幹線特急料金を東京~新大阪間で従来の950円増しで設定した際には経団連から大きな反発を食らい、2003年10月1日の「のぞみ」大増発に合わせて310円増しに値下げしているほか、リニア中央新幹線も「のぞみ」+1,000円以内にするよう強大な働きかけを行っている。
一方JR北海道やJR九州が値上げしようが、東京から北海道や九州へ行くにはまず航空機なので新幹線は使われないから影響が小さいし、小倉・博多まで山陽新幹線であればJR西日本管内であるため他社のJR九州が値上げしようが全く問題がないのである。
ただJR東日本の運営する東北新幹線・上越新幹線・北陸新幹線は東京を発着とするため出張利用が多い。このため新幹線の値上げには経団連からの反発がかなり予想される。
一方新幹線のそばを走る東北本線や上越線で長距離出張しようとする人はまずいない。正直経団連的には横を走る在来線は値上げしても差し支えはない。
そこで在来線は値上げしても良いが新幹線は値上げできないというミッションを達成する必要があるのではないか。
新幹線に乗るには運賃からなる乗車券と新幹線特急料金からなる新幹線特急券の両方必要となる。このうち運賃は営業キロに基づいて計算し、距離が遠くなればなるほど運賃が高くなっていく。
この営業キロは在来線であれば各駅間の距離の合計となるが、新幹線は在来線の線増という扱いになるため在来線の営業キロを準用するとしている。ただ新幹線は高速で運転するがゆえカーブを少なく直線を多くしているため、たいていの場合在来線より実際の道のりは短くなることが多い。実際東北新幹線東京~盛岡間は営業キロ535.3kmのところ実際には496.5kmしかないし、上越新幹線東京~新潟間は営業キロ333.9kmのところ実際には300.8kmしかない。JRの運賃は1kmごとの賃率によって決まっていることから、新幹線は実際の道のりより8%程度高い運賃をぼったくっていることになる。なおこれについては実際に1980年に東海道新幹線で裁判になり、一審で違法、二審で合法で結果合法としている。
がもし新幹線の運賃計算に係る道のりを営業キロから距離が短くなりやすい実キロに変更すれば、1km当たりの運賃本体価格値上げ分を距離が短くなる分値上げを抑えることができる。
もし現行運賃のまま東北新幹線で営業キロから実キロに読み替えた場合、東京~新潟間で220円、東京~仙台間・東京~新青森間で330円、東京~盛岡間で550円運賃値下げとなる。この220円~550円分を運賃値上げすれば、東北新幹線の運賃は変わらず在来線の東北本線の運賃を値上げすることができる。つまり経団連からのミッションとされる在来線は値上げしても良いが新幹線の値上げを抑えるという課題を達成できるわけだ!
新幹線実キロ転換構想を考えうる積み重なる状況証拠
新サービスえきねっとQチケで在来線使用か新幹線使用かを指定させている
新幹線運賃算定に係る距離を営業キロから距離が短い実キロに変更することで、在来線と新幹線の運賃計算に使用する距離が変わってくる。このため在来線と新幹線を同一路線としてみなせなくなる新在別線を行う必要が生じる。実際1996年1月20日JR九州運賃改定の際に山陽新幹線を運営するJR西日本と在来線の鹿児島本線を運営するJR九州で運賃が変わってしまったことからこの区間を含む新下関~博多間で新在別線扱いとし発券時に必ず経路指定しなければならない。
2024年10月1日から順次導入し2026年にJR東日本管内全域で利用可能にするとしているえきねっとQチケでは新幹線特急券または在来線特急券と同時購入しないと使えないことから新幹線と在来線の経路指定を購入時に求めている。このためJR東日本運賃改定では新幹線と在来線は完全別線扱いにすることはほぼ内定していると思われる
整備新幹線区間のJR線路使用料引き上げ示唆
財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会で整備新幹線区間のJR線路使用料の引き上げを提案している。
もっとも国土交通省や鉄道運輸機構の提案ではないのでただお金が欲しいという財務省的考え方ではある。
が、整備新幹線区間は並行在来線をJRから分離している関係上線増とすることができず、すでに新幹線の実キロで運賃を計算している。このため北陸新幹線や東北新幹線盛岡~新青森間では営業キロから実キロ変更に伴う距離短縮が全く見込めないため、運賃を値上げしたらその分運賃が値上げするだけである。つまり在来線を値上げし新幹線の値上げを抑えようという趣旨に反するものになる。
このため運賃値上げ分に関して整備新幹線区間の線路使用料を値上げしてもおかしくはない。
山形新幹線・秋田新幹線特急料金の100円値下げ
なお東京~山形間は営業キロ359.9kmから実キロ342.2kmに短縮するが、JRの運賃区分では340km超360km以内の運賃は同じ6,050円なので運賃値上げした分そのまま値上げとなる。その値上げ補償を兼ねている可能性はある。
いわゆるE特急料金区間の値上げ見送り
運賃上限変更認可で増収を見込み場合、運賃改定後でも今後3年間赤字であることを計算して予測しなければならず極めてハードルが高い。このため紙1枚の届出で手軽に変更可能な座席指定料金・在来線特急料金・グリーン料金から値上げして最終手段として運賃値上げを行うことが多い。
JR東日本は300億円の3年もの実質無利息社債を2回発行していることからも、もはや社債の利息すら払うことが蒸すかしいほど資金繰りが悪化しており傾いていると言っても過言ではない。にもかかわらず届け出だけで簡単に値上げできるE特急料金を値上げしたいないのだ。
実際にどのような運賃賃率を採るのか!
では今回の2026年3月JR東日本運賃改定でどのような運賃料金制度を採るのか予測していこう。
運賃の本体価格値上げへ!
JR東日本の税抜運賃賃率は、300kmまで16.20円、300km超600kmまで12.85円、600km超7.05円としている。これは国鉄最後の運賃改定1986年9月1日運賃改定では全国に適用している賃率であった。
その後1996年1月20日にJR北海道・JR四国・JR九州の3社が運賃改定した際には、JR四国は100kmまで、JR北海道は200kmまで、JR九州は300km以内のみの賃率を値上げとし、それ以降はJR東日本やJR西日本との運賃差額を同一としている。というのもいずれも狭い島の中なのでよほどでない限り300km超を乗る人はおらずそこの賃率を挙げても大して増収にならないのだ。
そこで今回のJR東日本の運賃本体価格の賃率値上げは最大でも300km以内に限局するものとして試算してみる。
もし新幹線を営業キロから実キロに読み替えれば東京~盛岡間は550円の値下げになることから、550円の値上げを図るものとする。JRの賃率は税抜なので税抜500円の苗毛となる。
まずはJR九州同様300kmまで賃率を上げる場合、500/300=1.67円/kmの値上げとなるから16.20円/kmから約17.87円/kmへの値上げとなる見込みだ。300kmまでの区間で約10%の値上げとなる。
またJR北海道同様200kmまで賃率を上げる場合、500/200=2.50円/kmの値上げとなるから16.20円/kmから約18.70円/kmへの値上げとなる見込みだ。200kmまでの区間で約15%の値上げとなる。
JR北海道は200kmまで21.20円/km、JR四国は200kmまで19.20円/km、JR九州は300kmまで20.75円/kmとしているが、今回のJR東日本運賃改定では約17.80~18.70円/kmとJR北海道・JR四国・JR九州より安い賃率であり続けるため認可申請も通るだろう。
JR東日本管内では新幹線と在来線は完全別線扱いへ!
先述したように2025年10月1日から順次導入し2026年にJR東日本管内全域で利用可能にするとしているえきねっとQチケでも新幹線特急券または在来線特急券と同時購入しないと使えないことから新幹線と在来線の経路指定を求めている。
このためJR東日本運賃改定では新幹線と在来線は完全別線扱いにすることはほぼ内定していると思われる。
JR東日本管内グリーン料金も600km超で値上げ、700km超の区分廃止へ!
距離短縮による新幹線特急料金の値下げは難しいか
結び
今回の2025年1月東日本旅客鉄道会社分割では、鉄道事業と不動産事業を別会社化することにより鉄道事業の収支を見やすくし値上げを図りやすくすることとした。
今後鉄道事業の分社化は進むのか、そしてJR東日本でどのような運賃改定を行うのか、見守ってゆきたい。
関連情報:会社分割(簡易吸収分割)による事業の承継に関するお知らせ – JR東日本
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