JR北海道は2019年5月10日、プレスリリースにて10月1日の消費税増税に合わせ運賃改定を行うと公表した( 運賃・料金改定の申請について )。今回はこれについて見ていく。
23年ぶりの本体価格値上げへ
今回の2019年10月1日JR北海道運賃改定では、消費税増税に伴い本体価格の値上げが実施される。
JRグループ企業の運賃値上げは2018年10月1日JR貨物運賃改定以来1年ぶり、JR北海道単体では1996年1月10日改定以来約23年9か月ぶりに本体価格の値上げを実施する。
そもそも2019年9月30日までのJR北海道の幹線の運賃賃率は200kmまで税抜き1km当たり17円85銭となっており、JR本州三社幹線の16円20銭より割高なほか、JR本州三社地方交通線の17円80銭とほぼ同等となっている。もちろん運賃区分が幹線と地方交通線で異なるので全く同額というわけではないが、概ねJR北海道の幹線運賃はJR本州三社の地方交通線並みということになる。
今回の運賃改定では、JR九州同様100kmまでは独自区分の対キロ区間制運賃を導入することとなった。運賃区分ごとに差はあるのだが、30kmから100kmまでは賃率20円50銭前後になるようだ。
なお、特急料金や座席指定料金、グリーン車料金などは消費税増税分のみの転嫁となり、本体価格の変動は端数整理のための10円以内に収まることとなった。また定期券の割引率も据え置かれることとなった。
これにより普通運賃は税抜き13.6%、定期運賃は税抜き20.1%の値上げとなった。なぜ割引率が同じなのに定期券の方が値上げ率が高く出ているかというと、JRグループでは定期券は100kmまでしか発売額の設定がなく、100kmを超える場合には100kmまでの運賃と残りの端数の部分を合算するためである。
この運賃改定により年間平均40億4900万円の増収を見込んでいるようだ。
こんなことを言ってなんだが、どうせ運賃改定するなら存続が危ぶまれる花咲線や根室本線(滝川~新得間)などを幹線から地方交通線に移すという発想はなかったのだろうか…
運賃改定前後の運賃比較
それでは2019年9月30日までの運賃と2019年10月1日以降の運賃を並べて比較しよう。
なお運賃情報はJR北海道公式データを使用している。
営業キロ (1km未満端数切り上げ) |
JR北海道 税率8%運賃 |
JR北海道 税率10%運賃 |
値上げ率 |
1~3 | 170 | 200 | 17.6% |
4~6 | 210 | 250 | 19.0% |
幹線 7~10 |
220 | 290 | 31.8% |
地方交通線 7~10 |
230 | 300 | 30.4% |
11~15 | 260 | 340 | 30.8% |
16~20 | 360 | 440 | 22.2% |
21~25 | 450 | 540 | 20.0% |
26~30 | 540 | 640 | 18.5% |
31~35 | 640 | 750 | 17.2% |
36~40 | 740 | 860 | 16.2% |
41~45 | 840 | 970 | 15.5% |
46~50 | 930 | 1130 | 21.5% |
51~60 | 1070 | 1290 | 20.6% |
61~70 | 1270 | 1490 | 17.3% |
71~80 | 1450 | 1680 | 15.9% |
81~90 | 1640 | 1890 | 15.2% |
91~100 | 1840 | 2100 | 14.1% |
地方交通線 92~100 |
2050 | 2320 | 13.2% |
101~120 | 2160 | 2420 | 12.0% |
121~140 | 2490 | 2860 | 14.9% |
141~160 | 2810 | 3190 | 13.5% |
161~180 | 3240 | 3630 | 12.0% |
181~200 | 3670 | 4070 | 10.9% |
201~220 | 3990 | 4510 | 13.0% |
221~240 | 4320 | 4840 | 12.0% |
241~260 | 4750 | 5280 | 11.2% |
261~280 | 5070 | 5610 | 10.7% |
281~300 | 5400 | 5940 | 10.0% |
301~320 | 5720 | 6270 | 9.6% |
321~340 | 5940 | 6490 | 9.3% |
341~360 | 6260 | 6820 | 8.9% |
361~380 | 6580 | 7150 | 8.7% |
381~400 | 6800 | 7370 | 8.4% |
401~420 | 7120 | 7700 | 8.1% |
421~440 | 7340 | 7920 | 7.9% |
441~460 | 7660 | 8250 | 7.7% |
461~480 | 7880 | 8470 | 7.5% |
481~500 | 8200 | 8800 | 7.3% |
501~520 | 8530 | 9130 | 7.0% |
521~540 | 8740 | 9350 | 7.0% |
541~560 | 9070 | 9680 | 6.7% |
561~580 | 9280 | 9900 | 6.7% |
581~600 | 9610 | 10230 | 6.5% |
地方交通線 547~582 |
9820 | 10450 | 6.4% |
単位:円
こうして見ると、遠距離より近距離で運賃値上げ率が高い。値上げ率30%超は国鉄時代から数えても1976年11月6日改定以来約42年11か月ぶりとなるが、大きく踏み込んだものだ。
ちなみに100kmから200kmまでは現在の1kmあたり税抜17円85銭の1.1倍を徴収することから、1kmあたり税抜き19円70銭となる見込みだ(ちなみに地方交通線は1kmあたり税抜き21円60銭)。
なお定期券は通勤・通学とも割引率が据え置かれることとなったことから、運賃の値上げ分がそのまま転嫁される形となった。
定期券はまだ割安だが、こんなに値上げして普通運賃が札幌市営地下鉄並みになったら、札幌駅が札幌市の中心地(大通)からややずれているだけ不利な分昼間は利用する人が大きく減るのではないだろうか。将来的なダイヤ改正で昼間の普通列車や区間快速いしかりライナーを削減する気でいるのだろうか。
本州3社との加算額の運賃改定前後の比較
運賃改定前後の変化について見たが、せっかくなのでJR本州3社(JR東日本・JR東海・JR西日本)との運賃差額でも比べてみよう。
なおJR本州3社の消費税10%時運賃は、JR東日本ICカード運賃のうち幹線運賃を10円単位で四捨五入したものになると仮定する。これは10km超では現在のJR6社旅客営業規則に基づく計算が今後も踏襲されると見越して採用した。
営業キロ | 税率8%時加算額 | 税率10%時加算額 |
1~3 | 30 | – |
4~6 | 20 | – |
7~10 | 20 | – |
11~15 | 20 | 100 |
16~20 | 40 | 110 |
21~25 | 40 | 120 |
26~30 | 40 | 130 |
31~35 | 60 | 160 |
36~40 | 70 | 180 |
41~45 | 80 | 200 |
46~50 | 90 | 270 |
51~60 | 100 | 300 |
61~70 | 130 | 320 |
71~80 | 130 | 340 |
81~90 | 150 | 370 |
91~100 | 180 | 410 |
101~120 | 220 | 440 |
121~140 | 220 | 550 |
141~160 | 220 | 550 |
161~180 | 220 | 550 |
181~200 | 320 | 660 |
201~ | 320 | 770 |
単位:円
このJR本州3社運賃との差額を見る限り、加算額がほぼすべての区間で2倍以上となっており、消費税増税を大きく上回る運賃値上げが行われたのは間違いない。また45kmの前後で大きく値上げしていることもわかる。
なお消費税8%時点で3km以内より4~15kmの方が加算額が低い理由は、当時JR東日本との境界駅だった中小国と隣の津軽今別(現:奥津軽いまべつ)の間の営業キロが14.3kmであり、10km以内の場合前後の運賃区分と差額の大小が前後しても遠距離の方が安くなる問題がないこと、廃線にともなう廃駅で入場券を売る際に10円でも高く売るために幹線ではJR6社で唯一初乗り運賃が値上げされたことによる。
また2016年3月26日の北海道新幹線新函館北斗開業によりJR東日本との境界駅が中小国から新青森に移動、隣の奥津軽いまべつまでの距離も伸びたことから賃率に左右されない運賃設定が容易に行えるようになった。45kmの前後で大きく値上げできるのもそのためかもしれない。
それにしても、261km以上では2019年5月現在はJR三島各社のうちJR九州が一番加算額の高い430円を徴収しているが(なお消費税増税後は440円に増額予定)、201km以上770円加算はなかなかに高くなったものだ。
本州3社と比べると、名鉄でいうA線とC線のように区間により距離に乗数をかけ、実質運賃を加算しているようにも見えてくるのは、気のせいだろうか…
ついでにJR東日本との境界が地方交通線から幹線に変わったので、今回の運賃改定でJR四国やJR九州のように擬制キロを採用する方式にしても良かったのかもしれないが…
なおJR北海道の運賃設定に関しては2019年5月26日まで国土交通省鉄道局にてパブリックコメントを受け付けている。
新千歳空港発着の加算運賃引き下げへ
また今回の2019年10月1日JR北海道運賃改定では、新千歳空港発着の加算運賃が引き下げられる。
加算運賃の引き下げは同じ2019年10月に京急羽田空港発着と京王相模原線ですでに引き下げ予定を公表しており、また過去に小田急多摩線や名鉄豊田線などで行ったことがある。しかしJRグループで加算運賃が引き下げられるのは今回が初となる。
今回のJR北海道運賃改定では新千歳空港発着の加算運賃が140円から20円に大幅値下がりし、120円安くなる。120円安くなるのは京急電鉄の羽田空港発着加算運賃の引き下げと同じであるが、単なる偶然であろうか?おかげさまで京急で羽田空港に行き、航空機で新千歳空港に向かい、JRで札幌で向かう場合には加算運賃が240円も安くなるではないか。羽田~新千歳間の航空旅客輸送量は日本一で世界二位なのだ。そんな利用をする方はいくらでもいるはずだ。
ただしこれまで長々と述べたように、今回の新千歳空港発着の加算運賃引き下げは基本運賃の値上げとセットだ。つまり加算運賃の引き下げは利用運賃の値上げとは必ずしもならない。
札幌~新千歳空港間の運賃は1,070円から1,150円に引き上げられ、80円値上がりする。
基本運賃200円の値上がりが加算運賃120円引きで相殺され80円に圧縮しているようにも取れるが、他の区間からすれば運賃値下げ緩和策のように見て取れる。バスが比較的割安なこともあって、料金値上げを抑えたかったのではないだろうか。
なお、札幌~新千歳空港間の営業キロは46.6km。JR本州3社運賃と比べて一番差額の差が大きくなる区間である。そんな調子なので、北広島で一度下車し運賃分割を行うと、2019年9月30日までは30円しか安くならないが2019年10月1日以降は50円安くなることになり、割引額が上がる。どうせ対新千歳空港で運賃で競うなら区切りの良い50kmまでは運賃を抑えても良かったと思うのだが、なぜそんな気の利いたことができないのだろう、いやこれまで気の利いたことができなかったから赤字まみれになったわけか…
ちなみに新札幌~新千歳空港間の営業キロは35.7km。基本運賃は120円値上がりするが加算運賃が120円値下がりするので、運賃改定後も運賃変わらず880円。大谷地~新千歳空港間のバスには意地でも勝ちたいようだ。
このほかに今回の運賃改定と同時に函館本線苗穂の営業キロを改定し、札幌方に0.3km移動させることとなった。
結び
今回の2019年10月1日JR北海道運賃改定では、消費税増税と同時にそれを大きく上回る運賃値上げを実施することとなった。
今後どのようにサービス改善が図られるのか、見守ってゆきたい。
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