今回は、JR旅客各社の運賃・料金のうち山形新幹線と秋田新幹線の特急料金について問題点を整理し、違法性も含めて考察していく。
以前2019年4月18日に記事にしたのだが、その後様々な内容が判明したので、前回の記事よりもさらに掘り下げて話を進めることとする。
山形新幹線・秋田新幹線の料金設定のあらましについて
1999年12月4日以降、2019年8月現在まで適用している山形新幹線及び秋田新幹線の料金計算について簡単に説明していきます。
山形新幹線や秋田新幹線を利用するには、ほかの新幹線や特急列車同様きっぷと特急券が必要になります。きっぷは全区間通しで通算して発売しますので他の列車を利用する場合と何ら変わりありません。そこで特急券の料金算定手法について見ていきたいと思います。
まず、山形新幹線「つばさ」及び秋田新幹線「こまち」は、全国新幹線鉄道整備法に基づく新幹線区間と、それ以外の在来線区間に分かれています。
新幹線区間は東北新幹線区間である東京~福島・盛岡間を指し、それ以外の区間である山形新幹線福島~新庄間及び秋田新幹線盛岡~秋田間は奥羽本線や田沢湖線などの在来線として扱われています。
特急料金を計算する際には新幹線区間を利用する場合には東北新幹線の特急料金を、新幹線以外の在来線区間を利用する場合には在来線A特急料金に基づき特急料金を計算しています。
また、新幹線区間と新幹線以外の在来線区間を跨いで利用する場合には東北新幹線区間の特急料金に在来線区間のA特急料金を3割引した額(10円未満端数切捨て)を合算した額としています。
なおこの料金計算方法にも変遷がありますので、過去の計算方法について知りたい方は山形新幹線・特急つばさ号の料金変遷をご覧ください。
2019年現在起きている問題点
一見するとシンプルな料金計算方法ですが、この計算方法により山形新幹線「つばさ」及び秋田新幹線「こまち」を新幹線区間と在来線区間で跨いで利用する場合、以下の問題が生じています。
以下の山形新幹線「つばさ」や秋田新幹線「こまち」の特急料金の導出は、全て新幹線区間と新幹線以外の在来線区間を跨いで利用する場合の特急料金の算出について記載しています。
座席指定料金割高問題
特急料金には、座席指定料金が内包されています。特急料金から座席指定料金を値引くと自由席特急料金となります。
当然のことながら、新幹線特急料金にも在来線特急料金にも、それぞれ座席指定料金分が内包されています。
上述の特急料金計算方法だと、山形新幹線「つばさ」や秋田新幹線「こまち」を利用する際、新幹線特急料金で座席指定料金1回分、在来線特急料金の3割引きで座席指定料金0.7回分、合計1.7回分の座席指定料金が徴収されています。
具体的には、2014年4月1日の料金改定以降2019年8月までは、新幹線特急料金に内包されている座席指定料金520円に加え、在来線特急料金区間の370円を加えた890円が座席指定料金として徴収されています(その分自由席は890円安いわけですが)。
またJR東日本をはじめいくつかの会社では閑散期・繁忙期に座席指定料金を200円前後させていますが、山形新幹線・秋田新幹線利用時には座席指定料金を1.7回分徴収していることから、閑散期・繁忙期の変動額も1.7倍の340円としています。
なおこの座席指定料金を1.7回分徴収している件は、JR東日本が公式に回答しているものです。
山陽新幹線と九州新幹線、東北新幹線と北海道新幹線はそれぞれ直通列車を運転しながらも、それぞれ別の料金表を合算したものを料金としています。しかし普通車指定席を利用した場合には座席指定料金分が1回分になるよう、発売額を調整しています。
東北新幹線内単独利用はもとより、他社線直通かつ別の料金表を用いる両者の料金は座席指定料金を1回分に調整しているのに、JR東日本完結となる山形新幹線や秋田新幹線の特急料金は座席指定料金を1.7回分徴収するなんて、普通考えられない話ではないかと思うのは私だけでしょうか?
同じ列車でも普通車よりグリーン車の方が安い問題
もう1つの問題が、区間と時期によって普通車指定席よりグリーン車指定席の方が安くなる問題。
先述したように、山形新幹線で福島を跨ぐ場合、及び秋田新幹線で盛岡を跨ぐ利用の場合、座席指定料金は1.7回分の890円が徴収されています。これに加え繁忙期には1.7回分の340円が加算され、合計1,230円が繁忙期の山形新幹線・秋田新幹線の座席指定料金となっています。
また山形新幹線・秋田新幹線のグリーン車料金(指定席)は、100キロまで1,030円となっています。グリーン車指定席の発売額は、特急料金から座席指定料金(山形新幹線・秋田新幹線の場合は1.7回分、つまり上述の1,230円)を値引いた後に、グリーン車料金(通年同額)を加算します。
つまり、山形新幹線で福島を跨ぐ場合、及び秋田新幹線で盛岡を跨ぐ場合に、100km以内でグリーン車を利用する場合は、
グリーン車指定席利用料金=繁忙期特急料金-繁忙期座席指定料金(1,230円)+グリーン料金(1,030円)=繁忙期特急料金より200円安い
となるのです。
その証拠画像が以下の2枚です。
出典:えきねっと 乗換案内
このようなグリーン車指定席が普通車指定席より安くなる事象は、以下の区間で起きています。
- 山形新幹線:郡山~米沢・高畠間
- 秋田新幹線:水沢江刺~雫石間、北上~雫石・田沢湖間、新花巻~雫石、田沢湖、角館間
このように、現時点では同じ列車でもグリーン車指定席が普通車指定席より安くなる事態が発生しているのです。
念のため付け加えますが、常磐線の場合は常磐線特急列車の普通車指定席事前料金が普通列車(快速・特別快速含む)グリーン車自由席の事前料金より安くなっていますが、両者は列車の種別も座席のグレードも座席の指定の有無もすべて異なることから、今回の山形新幹線・秋田新幹線のグリーン車の方が普通車指定席より安くなる問題とは別にとらえるべきだと思いますし、両者がともに連結される列車はないわけですから単純に優劣・損得をつけられる話ではないと思います。
なおこれらの問題は、現在の料金改定申請がそのまま通った場合、2019年10月1日以降は10円~20円変動しますが、本質的な話には変わり有りません(座席指定料金1回分:520円→530円、座席指定料金1.7回分:890円→910円、JR東日本管内グリーン車指定席料金(100キロまでの区間):1,030円→1,050円)
なぜこのような問題が起きてしまったのか
ではなぜこのような問題が起きてしまったのでしょうか。いくつかの側面から見ていき、それぞれについて考察していきたいと思います。。
「つばさ」在来線区間は他の在来線特急列車と1本の列車扱いだった
そもそも山形新幹線・特急つばさ号の料金変遷でも述べたように、JR東日本発足当初は原則上野から山形へ行くには、東北新幹線で福島まで乗車後、特急「つばさ」に乗り換えていました(実は在来線特急「つばさ」が1往復上野まで乗り入れていたのだが、それはさておき)。当時は奥羽本線福島~山形~秋田間に在来線特急「つばさ」号が運転していました。
その後、奥羽本線福島~山形間に新幹線車両が乗り入れられるよう改造し1992年7月1日ダイヤ改正で山形新幹線として山形新幹線「つばさ」が東京・上野~山形間を直通するようになりました。
しかし新幹線乗り入れ改造後の奥羽本線にはこれまでの在来線特急は乗り入れられず、在来線特急「つばさ」号は山形での分断・乗り換えを余儀なくされます。福島~山形間は山形新幹線「つばさ」号として生まれ変わりましたが、残された山形~秋田間は在来線特急「こまくさ」号として存続します。
この際に、もとの在来線特急「つばさ」号時代とできるだけ変わらないよう利便を図るため、在来線特急「つばさ」号がよく運転していた奥羽本線福島~山形~秋田間は1つの列車扱いとすることとしました。
しかし、山形新幹線「つばさ」で東京や上野から利用し、秋田まで利用する際には、どう考えても新幹線の区間とどう考えても在来線特急の区間を利用することになり、山形で必ず乗り換えが必要となることから1つの列車として扱うのは如何なものかということになりました。
そこで、山形新幹線開業前と同じ全国新幹線鉄道整備法によって定義されている区間と新幹線以外の区間で分けることとしたのです。これが料金計算上山形新幹線「つばさ」号を福島で別列車扱いとすることの始まりです。
しかし、山形新幹線「つばさ」号は直通する1つの列車なわけで、1人当たり1列車1座席しか取得できないわけですから、東京~福島~山形間は1つの列車、福島~山形~秋田間は1つの列車扱いとして、東京~山形~秋田を跨いだ場合は2つの列車扱いにして座席指定料金を1回分を上回る料金を徴収する方法も、やろうと思えばできたはずです。
新幹線と在来線を跨ぐ際、無理やり2列車に分けて乗継割引の変法を入れた(しかも抜け穴有り)
さて、新幹線と在来線を跨ぐ列車の設定は国鉄時代にも例がなく、初めての試みとなりました。当時の特急料金の算定方法にも苦難が見受けられます。
新幹線と在来線特急を乗り継ぐ場合(1992年当時は東京・上野を除く新幹線停車駅全駅で有効)には乗継割引が適用となり、在来線特急料金分は半額となりました。当時の座席指定料金は1回あたり500円でしたが、乗り継いだ在来線特急の座席指定料金相当分は半額の250円相当としていたわけです。利用者は1人当たり新幹線と在来線特急でそれぞれ1席ずつ、合計2席を確保する必要があったため、座席指定料金1.5回分で2席を確保できました。
そもそも国鉄時代の乗継割引は新幹線開業により既存の在来線特急が新幹線と取り残された在来線区間に分断されるため、値上げ緩和措置を図ったものが発祥のため、座席指定料金は1回分でいいのではないかという意見もあるかもしれませんが、実際には独立した2列車を乗り継いでいることにはなってしまっているのでこれ以上は通常の乗継割引については触れません。
山形新幹線の特急料金を計算しようとした際、山形新幹線開業前まで利用していた乗継割引をうまく活用できないか模索していました。そこで考え出されたのが、幹在特割引です。
この幹在特割引では、新幹線以外の区間(つまり奥羽本線区間)の特急料金を乗継割引の5割引きから山形新幹線「つばさ」号運転区間に限り3割引きに割引き率を縮小することとしました。
しかしここで問題が発生。乗継割引は新幹線と在来線の間で異なる列車を乗り継ぐことを前提としていましたが、新幹線と在来線を直通する山形新幹線「つばさ」号は直通するため新幹線と在来線の間で乗り換える必要がありません。
そこで、乗継割引と前提を合わせるために山形新幹線「つばさ」号でも新幹線区間と在来線区間で異なる列車を乗り継いでいることとし、それをたまたま直通しているだけということにしました。
それで追加されたのがJR東日本旅客営業規則第57条6項「前各項の規定によって急行券を発売する場合、2個以上の急行列車が一部区間を併結運転する場合の当該急行列車又は旅客車を直通して運転する2個以上の急行列車は、1個の急行列車とみなして1枚の急行券を発売する。ただし、新幹線と新幹線以外の線区を直通して運転する特別急行列車及び別に定める急行列車を除く。」のただし以降の部分です。
このことから、普通車利用の特急料金のみならず、グリーン車利用時や払い戻し手数料についても山形新幹線「つばさ」号で福島を跨ぐ場合には2列車分の料金が必要でしたし、1997年3月22日運転開始の秋田新幹線「こまち」号にもこの制度が踏襲されました。
しかし、そもそも1992年7月1日の山形新幹線「つばさ」号設定当初から、東京発山形・新庄方面の一番列車と新庄・山形方面から東京行き最終列車は東京~福島間で東北新幹線「やまびこ」ないし「Maxやまびこ」と併結しておらず、そもそも併結していないのでJR東日本旅客営業規則第57条6項の条件に当てはまらないこと、ほかに新幹線と新幹線以外の線区を直通して運転する特別急行列車に関する規定がないことから、これらの東北新幹線「やまびこ」等と併結しない山形新幹線「つばさ」(2019年3月16日ダイヤ改正時点で、東京6時12分発「つばさ121号」新庄行き及び新庄19時57分発「つばさ160号」東京行き)は正真正銘の1本の列車ということになります。定期列車に限ればこの1往復2本のみですが、臨時「つばさ」も含めると東京~福島間で東北新幹線「やまびこ」と併結しない列車の設定は多くあります(最大毎時1往復程度)。
そうなると、これら2列車に関しては座席指定料金は1回分の520円のみを徴収するのが妥当であり、旅客営業取扱基準規程第5条(規定の解釈又は適用について疑いのある場合の処理方)に基づけばほかの山形新幹線「つばさ」号や同じ料金制度を用いる秋田新幹線「こまち」号も座席指定料金は1回分しか算定してはいけないはずです。
またこの山形新幹線の制度上の福島での別列車扱いの原因の1つとなっていた特急「こまくさ」は、1999年12月4日の山形新幹線「つばさ」新庄延伸により運転区間を山形~秋田間から新庄~秋田間に短縮、特急から快速に格下げとなり料金不要となりました。
これによりわざわざ山形新幹線「つばさ」号や秋田新幹線「こまち」号を別列車で分ける必要が無くなり、グリーン車料金と払い戻し手数料(グリーン車・普通車問わず)について、2002年12月1日より1つの列車扱いとしています。
しかしグリーン車指定席や払い戻し手数料が1つの列車扱いとなったにもかかわらず、普通車指定席では2つの別列車扱いとして座席指定料金を1.7回分徴収し続けています。グリーン車が1つの列車扱いとなった2002年12月1日料金改定ではJR東日本管内B特急料金が値下げされていることから、JR東日本管内しか走らない山形新幹線・秋田新幹線の特急料金を座席指定差額1回分に直すことはできたはずです。
JR東日本管内のグリーン車料金を値下げしてしまった
そして最後は枝葉の問題と言われればそれまでですが、山形新幹線及び秋田新幹線で100km以内の区間を利用の際にグリーン車指定席の方が普通車指定席(繁忙期)より安くなる原因についてです。
2002年12月1日改定で山形新幹線「つばさ」号運転区間及び秋田新幹線「こまち」号グリーン車料金はそれまでの新幹線区間と在来線区間で別計算だったものを、通しの計算に変更しました(「つばさ」の運転のない仙台~福島~米沢間の利用や「こまち」の運転のない八戸~盛岡~田沢湖間の利用などは2019年現在も打ち切り計算)。
これにより、山形新幹線で郡山~福島~米沢間(累計100km以内)を利用する際には、2002年11月30日までは郡山~福島間の新幹線グリーン券1,240円と福島~米沢間の在来線特急グリーン券1,240円の合計2,480円がかかっていました。当時の郡山~米沢間の繁忙期座席指定料金は510円+360円+200円+140円=1,210円でしたから、当然グリーン車指定席より普通車指定席の方が安かったわけです。
その後2002年12月1日料金改定で山形新幹線・秋田新幹線に関しては「つばさ」運転区間及び「こまち」運転区間に限りグリーン車料金を通算することとなりました。郡山~米沢間は当時の全国適用のグリーン車料金1,240円となり、繁忙期普通車指定席利用時の座席指定料金1,210円より30円だけ高くなり、かろうじてグリーン車指定席より普通車指定席の方が安くなる、はずでした。
なんとこの時、JR東日本管内のグリーン料金を軒並み値下げし、100km以内の区間は1,240円から1,000円に値下げしたのです!山形新幹線・秋田新幹線に関してはグリーン料金を通算することとなりましたから、大幅値下げとなりました!
しかしこのグリーン料金値下げにより、郡山~米沢間のグリーン料金は当時1,000円、繁忙期普通車指定席座席指定料金は1,210円となり、グリーン車指定席より繁忙期普通車指定席の方が210円高くつくこととなりました。
たしかにこの値下げがなければ同じ列車のグリーン車指定席より普通車指定席の方が高くなることは避けられますが、そもそも座席指定料金を山形新幹線や秋田新幹線でも1回分しか徴収しなかったら料金の逆転現象は起きなかったはずです。このグリーン車料金値下げを2002年12月1日に行ったのはJR東日本のみですから、JR東日本の完全な落ち度でしょう。
山形新幹線・秋田新幹線料金の法的問題点
ではこれらの問題点が日本国法によってどのような問題が起こりうるのか、見ていきたいと思います。
座席指定料金1.7回分で1列車1席しか取れないのは、民法における契約不履行の恐れ
山形新幹線で福島を跨ぐ場合、及び秋田新幹線で盛岡を跨ぐ場合には二つの列車としているにもかかわらず、新幹線特急券(普通車指定席)に一つの列車しか印字しないのは旅客営業規則に反しているものと思われます(2つの列車に対してまとめて1枚のきっぷに印字してよいという規定はあるが、「はやぶさ」から「やまびこ」への乗り継ぎなど1つの列車扱いとしている場合のみの条文のため)。もし二つの列車のはずなのに一つの列車しか記載せず一つの列車しか座席が確保されていないのであれば、民法における契約不履行に当たる可能性があります。
この件についてJR東日本は文面にて「直通列車にご乗車いただくお客様に対し、わざわざ分割してお席を発売することは致しておりません」としている。その前に「「つばさ」「こまち」という列車の名称としては、1つの列車として東北新幹線と山形(秋田)新幹線を跨いでご乗車しているにすぎません」というのは、「実質2つの列車を乗り渡っている」ということから「つばさ」「こまち」は1つの列車であることを宣言しているように見えるのだが…
繁忙期の加算は、詐欺罪の恐れ
もし「つばさ」「こまち」運転区間で、福島または盛岡を跨いだ場合でも一つの列車なのであれば、2019年4月時点では旅客営業規則第125条において、新幹線なのか新幹線以外の列車なのかは判然としないがいずれにせよ普通車指定席におけるいわゆる繁忙期の期間の340円増という記載はないことから、記載の200円との差額140円については旅客営業取扱基準規程第5条(規定の解釈又は適用について疑いのある場合の処理方)により加算すべきではないものとなり、この140円の請求は詐欺に当たる可能性があるかと思われます。
山形新幹線・秋田新幹線の座席指定料金の未届けは鉄道事業法違反の疑い
もし仮に山形新幹線「つばさ」及び秋田新幹線「こまち」の座席指定料金を890円としたとしよう。
座席指定料金を実施するには国土交通省に届出が必要となっています。
2019年8月時点でJR東日本が届出ている座席指定料金は以下の通り。
- SL銀河・HIGH RAIL 1375車両による列車:820円
- それ以外の列車:520円(但し閑散期320円、特別急行列車の繁忙期720円)
以上
つまり、座席指定料金の届出に890円という文字はみじんも出てきやしないのだ。
これは鉄道事業法における届出を明確に怠っているものであり、明らかに違反しているとしか言いようがない。しかも届出なので国土交通省は有無を言わさず首を縦に振らざるを得ないことから、山形新幹線・秋田新幹線の座席指定料金の未届けに関しては100%JR東日本に落ち度があるとしか言いようがない。
そもそもこの座席指定料金を届け出ている関係で、2011年3月12日から直通が始まった山陽新幹線と九州新幹線は、それぞれ個別の三角表を用いて特急料金を合算しているが、そのまま合算すると特急料金に内包されている座席指定料金が2回計上されてしまうため、届け出通り1回分とするため両線の特急料金の合計額から座席指定料金を1回分差し引いています(JTB時刻表やJR時刻表の料金表は見やすくするために1枚の料金表に載せているだけであって、旅客営業規則や料金上限認可書類には直通した際の料金表記はない。また厳密には料金上限変更認可申請に記載の新幹線特急料金は自由席特急料金(または立席特急料金)の額であり、認可の料金に届出の座席指定料金を加えて指定席特急料金としている。本来はそのように考えるべきでそのように記載すべきなのであるが、JR各社の旅客営業規則やJTB時刻表やJR時刻表の流通本では特急料金に座席指定料金は内包しているとしているため、この記事では特急料金には座席指定分の料金が含まれるとして記した。厳密には山陽・九州新幹線や東北・北海道新幹線の普通車指定席特急料金は、認可を受けたそれぞれの自由席特急料金表または立席特急料金表を合算し、座席指定料金1回分を足したに過ぎない。認可が自由席新幹線特急料金でしか行われていない以上、山形新幹線・秋田新幹線においても認可を受けた新幹線区間の自由席特急料金と届け出た在来線区間の自由席特急料金の3割引き相当の額を合算したのちに座席指定料金1回分を合算することが可能なはずである)。
またJR東日本が運営する東北新幹線と他社線となるJR北海道が運営する北海道新幹線においても同様の措置が取られており、座席指定料金は1回分になるよう料金が調整されています。
JR東日本はメールの文面で「新幹線と在来線では、特急料金について別々に設定しなければならない」としているが、そもそも別々に設定しなければならない義務はないし、新幹線区間と在来線区間で三角表や対距離区間表が分かれていようが、先述の山陽・九州新幹線や東北・北海道新幹線でも個別の特急料金表を合算して座席指定料金を1回分に調整できるし実際にしているのであって、2つの料金表を用いて直通する列車の料金を算出するからと言って山形新幹線や秋田新幹線に対し座席指定料金を1.7回分徴収してよいという理由にはならない。
しかも他社にはなるが、全例としてJR九州で2004年3月13日から2011年3月11日まで九州新幹線「つばめ」と鹿児島本線特急「リレーつばめ」を乗り継ぐ際に通しの特急料金を設定していた(おそらく料金上限認可後の届け出で調整したものと思われるが)。このことを考えても、新幹線と在来線で通しの特急料金を設定した前例がある以上、その設定が山形新幹線及び秋田新幹線でできないなんて断じてあり得ない。
つまり山形新幹線・秋田新幹線の特急料金は、新幹線区間と新幹線以外の在来線区間を跨いでいようが、2019年8月現在520円でなくてはならないのだ。自社線内に係る区間(東北新幹線と北海道新幹線の直通)で座席指定料金を1回分に調整しているにも関わらず自社線内のみの山形新幹線や秋田新幹線で座席指定料金の徴収を調整しようとしないのは、前回の2014年4月1日改定時点では北海道新幹線が未開業で自社線内に関わる区間でそのような座席指定料金を調整する措置が行われていなかったものの、今回の2019年10月1日料金改定でも座席指定料金分の調整を山形新幹線「つばさ」や秋田新幹線「こまち」で行わないのは、JR東日本の怠慢と言わざるを得ないのではないでしょうか。
山形新幹線・秋田新幹線として料金表の認可申請をしていないのは、鉄道事業法違反の恐れ
鉄道事業法第16条1項及び鉄道事業法施行規則第32条1項によれば、新幹線に係る特急料金の上限変更は国の認可を受けなければなりません。一方、在来線特急(私鉄含む)(及び座席指定料金・グリーン車などの特別車両料金)は鉄道事業法施行規則第34条1項により認可を受けることなく料金を届け出るだけで良いとしています。
用語の整理をしますが、
- 認可…各事業者から申請のあったものを国(鉄道の場合は国土交通省運輸審議会)が審査し、妥当かどうか見極める。つまり、国は申請内容が不当なものまたは不十分なものの場合、不認可として差し戻すことができる。
- 届出…各事業者から申請のあったものを国が受け取る。国は口出しすることはできず、届出したものをそのまま受け入れるほかない。
つまり、JR東日本の場合、在来線特急料金や指定席料金、グリーン車料金は届出さえすれば自由に決められます。一方で運賃上限や新幹線特急料金の上限は国がある程度制御することができます。
2019年8月時点で、山形新幹線「つばさ」や秋田新幹線「こまち」は新幹線区間と新幹線以外の在来線区間で別列車扱いとしているのもあってか「つばさ」や「こまち」を直通する料金表の認可申請はありません。でもこれって、JR東日本が国の目を意図的にすり抜けようとしていませんか?
別に直通する1つの列車であっても山陽新幹線と九州新幹線、東北新幹線と北海道新幹線のようにそれぞれ別の料金表で申請して特急料金を合算しているケースはあります(但し先述したように座席指定料金は1回分になるよう調整している)。でもこれらは全ての料金表が新幹線に係る(関係する)ものであり、全て国(国土交通省)の認可が下りています。
しかし山形新幹線や秋田新幹線の料金は、新幹線区間は国の認可した東北新幹線の料金表を基に、奥羽本線や田沢湖線区間は認可不要のA特急料金表を基に算出しています。これでは認可のいらないグレーゾーンがある状態でうやむやなまま実質1列車1席の利用で座席指定料金1.7回分が徴収されてしまいます。
これを防ぐため、国(国土交通省)は2019年7月2日に国土交通省に提出されたJR東日本の料金上限変更認可書類を書類不十分で不認可とし、料金上限変更認可申請書類として山形新幹線(東京~新庄間)及び秋田新幹線(東京~秋田間)で三角表などを用いて通しの特急料金表を作らせるべきではないでしょうか。そもそも山陽新幹線と九州新幹線、東北新幹線と北海道新幹線のばあいは、それぞれ別会社が運営する路線を直通しているから各社で新幹線特急料金表を申請しているのであって、JR東日本管内で完結する山形新幹線「つばさ」や秋田新幹線「こまち」に関しては敢えて分けて申請する必要はないので一本化した三角表を作成できるはずです。
また新幹線区間と在来線区間を路通しの特急料金表として作成する場合、新幹線に係る、つまり関連していれば国の認可の対象となります。さすがに奥羽本線・田沢湖線区間のみでの利用(福島~新庄間や盛岡~秋田間)の場合は在来線特急と同じ扱いで届出のみで良いと思いますが、1駅でも東北新幹線に乗り入れる利用であれば全国新幹線鉄道整備法に基づく新幹線に関係している料金になりますので、認可される必要が生じます。つまり山形新幹線や秋田新幹線の料金は、鉄道事業法により1駅でも東北新幹線に乗り入れる利用であれば国の認可を受ける必要があるものと思われます。
この新しく作成される山形新幹線・秋田新幹線直通の特急料金表で、各区間の料金を「福島または盛岡発着の新幹線部分の料金と、((届出の特別急行料金)-(届出の座席指定料金))を3割引した額の合計額」を上限額として認可すれば、座席指定料金差額も先述の届出ている額となり鉄道事業法と照らし合わせても合法となるほか、これまで挙げてきた問題点をすべて解決することができます。つまり、山形新幹線・秋田新幹線の全区間通しの特急料金表を作成し認可を受けさせることは今回の問題解決にあたり非常に有効であるものと思われます。
実のところ乗継割引の料金計算は旅客営業規則で規定されているのに、山形新幹線や秋田新幹線の料金に適用される幹在特割引の料金計算は旅客営業規則より下位の旅客営業取扱基準規程で定めています。他の規定を考慮しても陰でコソコソやっているようで印象良くないんですよね…国の認可があれば正々堂々と料金の正当性について評価されるので、JR東日本としても完全な潔白の証明にもってこいなのではないでしょうか?
この件における様々な取り組みについて
この件について、時刻表の達人管理人快速++は以下のような行動をしてまいりましたので、ご報告させていただきます。
JR東日本と文面でやり取り
そもそも今回の問題提起に至ったのは、2019年1月頃、ぼーっとJTB時刻表の山形新幹線・秋田新幹線の料金表を眺めていた際に、なぜ1つの列車なのに「つばさ」及び「こまち」の座席指定料金は520円ではなく890円なのか、という疑問から始まっています。
そこで料金表の作成の基となっている旅客営業規則を端から端まで読み、矛盾点がないかを条文読解の観点から見ていきました。
そして2019年4月18日に問題提起、記事内に以下の5つの質問を作成するに至ります(同日お問い合わせよりJR東日本に連絡済み)。質問状は以下の通り。
その後1か月ほど経過した5月21日にJR東日本より以下の返信がありました。
おそらくここまで時間がかかっていたのは、役員レベルでの会議にまで持ち越され、社内でも十分に議論されていたためではないでしょうか。
JR東日本より返信が遅くなったとお詫びの連絡がありましたが、6月30日までの期限内かつ社内での議論を行って判断していただきたいと考えていたので、この点に落ち度はないものと思います。
しかし質問状の回答に際して一部不備点があったと考えたため、すかさず5月22日に返信。
その後6月6日に追加の回答があったものの、「現時点でこれらの取り扱いについて変更する考えはございません」とあったことから、交渉決裂と判断しました。
なおこの後、7月2日JR東日本は運賃・新幹線特急料金上限認可申請を行いましたが、その際の認可された後の料金についても公表し、山形新幹線・秋田新幹線の座席指定料金を申請の530円よりはるかに高い910円に設定しようとしていることが判明いたしました。
この頃、上述の山形新幹線・秋田新幹線の福島や盛岡を跨ぐ100km以内の区間でグリーン車指定席料金より繁忙期普通車指定席料金の方が高い問題がTwitterでの指摘で発覚、そちらについても調査を並行して行いました。
関係各所への報告及び要望
その後の活動としまして、山形新幹線・秋田新幹線の福島や盛岡を跨ぐ100km以内の区間でグリーン車指定席料金より繁忙期普通車指定席料金の方が高い問題については上位の座席の方が通常料金で安くなってしまいその旨が郡山駅など発着に関係する駅に記載のないことから、消費者庁に連絡しております。
またJR東日本が料金上限認可申請を行った2019年7月2日に国土交通省に山形新幹線及び秋田新幹線の料金の不当性について連絡、その甲斐もあったのか当初から行う予定だったのか分かりませんが、7月8日から7月21日までJR東日本を含むJR旅客5社の運賃及び料金上限認可に関してパブリックコメントを募集しておりました。
この際、山形新幹線・秋田新幹線の料金表の認可資料未記載と届出の座席指定料金を上回る料金の徴収については、既に当該運賃・料金上限認可申請のパブリックコメントに記載済みです(案件番号:155190809 消費税率引き上げに伴う鉄軌道事業者の旅客運賃等の上限変更認可申請に関する意見募集について(JR) 2019年7月20日意見提出 受付番号:201907200000577560)。つまりこの件について国土交通省も知らなかったでは済まされません。
もし現状のままJR東日本の料金上限認可を行うのであれば、鉄道事業法違反の可能性が極めて高くなります。認可を行うということは国土交通省も審議しているはずですから、認可した場合は国土交通省も不当な料金設定に加担したことになりますから、同罪となります。
今回の料金認可は消費税増税に関して行われるため、どの利用形態にとっても消費税が極力均等に転嫁されるような仕組みの方が良いと考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし今回の運賃改定を見るに、京急電鉄と京王電鉄は加算運賃の値下げを同時に行うことにより、加算運賃適用区間では基本運賃分が増税で値上げしても総じて値下げになっている区間はあります。今回のケースは法律(特に鉄道事業法)に抵触しかねない事態ですので、消費税増税に伴う値上げを無視した値下げを行ってもおかしくないはずです、いや、むしろその分過去にさかのぼって差額を返金すべきではないでしょうか?
もし現状のままJR東日本の料金上限認可を行うのであれば、上記理由によりJR東日本及び国土交通省を相手取り、2018年8月某日に使用した秋田新幹線「こまち」号指定席特急券2枚を行使し民事訴訟を起こすことを辞しません。また集団訴訟も検討しております。
とはいえ訴訟を起こしてしまうと、長期化し事態の収拾が遅くなる可能性が極めて高いため、他に手を打てなくなった場合の最終手段と考えています。その前に山形新幹線「つばさ」号及び秋田新幹線「こまち」号に対し、適切な特急料金が課されることを切に願います。
結び
今回の問題の要点として、山形新幹線「つばさ」号及び秋田新幹線「こまち」号は
- グリーン車指定席や払い戻し手数料では1つの列車扱いなのに対し、普通車指定席では異なる2つの列車扱いとして1.7回分の座席指定料金を徴収している。
- 1.7回分の座席指定料金を徴収しているにもかかわらず、実質1列車1席分しか座席を確保していない。
- 一部区間では時期によってグリーン車指定席より普通車指定席料金の方が料金が高くなってしまっている。これに関して利用客に対し適切な告知をしていない。
- 実質直通する1つの列車に対し座席指定料金1.7回分に増額しているにも関わらず、鉄道事業法に基づく届け出を怠っている(鉄道事業法違反の疑い)。
などの問題が生じています。
この件に対してJR東日本は鉄道事業法などの法律をうやむやにし、山形新幹線及び秋田新幹線の特急料金について既成事実化を図り、逃げ切ろうとしています。
山形新幹線「つばさ」号及び秋田新幹線「こまち」号に対し、適切な特急料金が課されることを切に願います。
(2021.11.16追記)2021年11月16日付のJR東日本のプレスリリースにて、2022年春より山形新幹線・秋田新幹線の特急料金を改定し、座席指定料金を910円から530円に値下げするとしました。これにより鉄道事業法違反疑い状態を解消する見込みです。
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