40km超で運賃値下げも増収へ! 京急電鉄運賃改定(2023年10月)

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40km超で運賃値下げも増収へ! 京急電鉄運賃改定(2023年10月)

京急電鉄は2023年1月13日、プレスリリースにて2023年10月1日に運賃を改定すると公表した( 鉄道旅客運賃の改定を申請しました )。今回はこれについて見ていく。

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28年ぶりの運賃改定も遠距離で値下げへ!

今回の2023年10月1日京急電鉄運賃改定では、1995年9月1日運賃改定以来約25年1か月ぶりに消費税率改定を除く運賃改定を行うこととなった。

初乗りIC136円から150円に値上げする。10km超~30kmまではおおむね30円~40円程度の値上げとなり、普通運賃の値上げ額は最高で25km超~30kmの36円値上げの367円から403円への値上げとなる。

まあここまで見れば2023年10月1日南海電鉄運賃改定と同様中距離以上は40円の値上げになるのか、と思いきや、なんと京急電鉄では遠距離で普通運賃・通勤定期運賃の値下げを行うのである

今回の2023年10月1日運賃改定より実施する京急電鉄の運賃は以下の通り。

京急電鉄運賃前後比較
営業キロ(km) 2019/10/1
消費税率改定
2023/10/1 引き上げ率
1~3 136 150 10.3%
4~6 157 180 14.6%
7~10 199 228 14.6%
11~15 242 277 14.5%
16~20 283 313 10.6%
21~25 314 347 10.5%
26~30 367 403 9.8%
31~35 430 455 5.8%
36~40 492 510 3.7%
41~45 576 566 -1.7%
46~50 650 620 -4.6%
51~55 723 667 -7.7%
56~60 796 710 -10.8%
61~65 870 740 -14.9%
66~67 943 740 -21.5%

単位:円

なお今回の運賃改定では空港線天空橋~羽田空港間の加算運賃は50円のまま据え置く。




また1997年4月1日消費税率改定から導入している割安な特定運賃も今回の運賃改定で変更する。品川~京急川崎間および京急川崎~横浜間は232円から240円に、品川~横浜間は303円から313円にそれぞれ引き上げるが、値上げは10円以内と小幅としている。

60km超に至っては740円に揃えるため、泉岳寺・品川~三崎口間でしかありえなかった943円区間は740円に203円も値下げする

ただ、京急電鉄は最遠でも泉岳寺~三崎口間の66.9kmのため、どうしても京急線40km超の利用ができない南太田~能見台の各駅発着の利用は全てにおいて値上げとなる。

この近距離値上げ・遠距離値下げにより定期外利用では9.7%の増収を図る見込みだ。

なお京急電鉄が発売する泉岳寺までの往復乗車券と都営交通1日乗り放題の東京1DAYきっぷの発売額はおおむね700円+泉岳寺までの京急線往復運賃の3割引き相当額となっている。このため泉岳寺までの運賃が値上げする能見台以北では東京1DAYきっぷも値上げ、金沢文庫以南では東京1DAYきっぷは値下げとなる見込みだ。




なぜ遠距離で値下げすることとしたのか

では増収を図るために行う今回の2023年10月1日京急電鉄運賃改定で、なぜ遠距離の値下げを図ることとなったのか。

そもそも京急の運賃が近距離で安く遠距離で高くしていたのは、品川~横浜間の国電、のちのJR東日本京浜東北線や東海道本線との競合にある。京浜東北線と至近距離に駅があるため運賃でも割安競争をしていたほか、国鉄では全国的な値上げを行う一方で1982年4月20日運賃改定より京急や阪急と競合する区間を中心に特定運賃を多数設定して競合力を高めることとした。これに勝つべく、品川~横浜間に相当する25km以内では運賃を割安に設定した。

また逗子市内・横須賀市内・三浦市内では東京都内や川崎市内・横浜市内ほどの利用がなく運転本数を維持するにも1人当たりのかかる費用が高くなっていた。このため逗子市内・横須賀市内・三浦市内発着利用が多く京急しか選択できないであろう遠距離で運賃をどんどん値上げしたのである。

ただ1つ問題が生じた。それは現状の運賃では区間によっては途中で一度改札を出た方が安くなることである。泉岳寺~逗子葉山間は650円だが、泉岳寺~横浜間および横浜~逗子葉山間はともに314円のため、横浜で一度改札を出ると628円で移動でき通しより22円安くなる。品川~逗子葉山間に至っては品川~横浜間に割安な特定運賃を敷いているため304円で行くことができ、横浜で一度改札を出ると618円となり通しより32円安くなる。

しかもさらに困ったことに品川~横浜間ではJR東日本と競合しており、こちらも京急との競合目的で特定運賃293円で利用できてしまう。そうなると品川~逗子葉山間は京急で乗り通すより横浜までJR東日本で行った方が43円も安くなるのである。これでは京急からしたら本来650円を取ろうとしてたところ半分以下の314円しか得られない

ただ、この近距離安値にも疑問があった。そもそも品川~京急川崎間はJR東日本京浜東北線からそこそこ離れたところを走行しているため需要が分かれているし(大井競馬場から京急線立会川まで歩く人はいるが、大井町駅に向かう人はあまりいない)、京急川崎~横浜間は至近なものの京急の方が駅数が圧倒的に多いため京急の普通車に乗るような人は多少高くなっても乗る人たちなのである。

そこで今回の運賃改定では短距離を値上げ・遠距離を値下げすることにより、泉岳寺~横浜間や横浜~逗子葉山間は347円に、品川~横浜間では313円に値上げする一方で、品川~逗子葉山間は620円に値下がりする。これにより泉岳寺・品川~逗子葉山間での利用は横浜で降りない方が安くなるし、JR東日本は鉄道駅バリアフリー料金制度導入に伴い10円の値上げを図ることもあいまって品川~逗子葉山間の利用でも品川~横浜間でJR東日本を利用するより京急を通しで利用した方が30円安くなる。




ただ、東京23区へ向かう利用が横浜駅で他社線に乗り換えてしまうことは他でも起こり得る。横須賀中央から新宿へ向かう場合、京急で品川まで乗り通してJR山手線に乗り換えると京急650円とJR東日本198円の合計848円かかるが、横浜で東急東横線に乗り換えて地下鉄副都心線直通で新宿三丁目まで乗っても京急367円+東急電鉄272円+東京メトロ168円の合計807円と31円安くなる。なんと京急の遠距離運賃が高すぎて2社より3社分乗った方が安くついてしまうのだ

今回の運賃改定後は品川乗り換えが京急620円+JR東日本208円の合計828円、横浜乗り換えが京急403円+東急電鉄309円+東京メトロ178円の890円となるため品川乗り換えの方が62円安くなる。

余談だが、金沢文庫~新宿の場合は運賃改定前の時点で既に横浜乗り換えより品川乗り換えの方が安い。このため金沢文庫~品川間までの40km以内の区間は容赦なく値上げすることとしたのだろう。

つまり今回の遠距離での運賃値上げの一番の目的は東京23区に向かう利用を横浜駅で他社線に乗り換えさせることなく品川まで京急に乗ってもらうことであり、定期外増収率9.7%以上の増収を狙っているのである

また、遠距離の値下げは減便の補償の可能性もある。京急電鉄では2021年10月18日ダイヤ改正にて平日昼間に京急久里浜~三崎口間で10分間隔から20分間隔で減便したほか、2022年11月26日ダイヤ改正にて土休日昼間の減便は免れたものの快特から特急に格下げしたことにより横須賀・三浦市内から横浜・品川への所要時間が延びている

また京急電鉄では今後も輸送密度が低い金沢文庫以南での減便を検討していることを考えると、減便補償の値下げとも取れなくはないだろう。




羽田空港加算運賃は変更せず

今回の2023年10月1日京急電鉄運賃改定では、羽田空港発着の加算運賃は変更しない。

京急電鉄では空港線天空橋~羽田空港間に加算運賃を設定している。1998年11月18日の開業時は170円の加算運賃を設定していたが、建設費や設備使用料の償還が順調に進んでいたため2019年10月1日の消費税率改定に伴う運賃改定に合わせ50円に引き下げた

しかし2020年から旅客需要が大幅に減り、特に航空便は欠航が相次いで羽田空港利用者数が8割減にまで落ちてしまった。これにより京急電鉄でも鉄道事業が赤字になり利益按分による建設費償還ができなくなったこと、空港線自体の利用者大幅減少により加算運賃の徴収額が大幅に減ってしまったことから、建設費の利息すら返せなくなってしまった。これでは元本が膨らみ借金が増え、京急電鉄自体の経営を圧迫してしまう。

また京急電鉄では羽田空港駅引き上げ線増設工事を行っている。この工事にももちろん費用が掛かるほか、空港線加算運賃のからも拠出することができる。が、今回空港線加算運賃を値上げしなかったがこれらの工事費を賄えるのだろうか?まさか本線の収益から取ろうと考えてはいないだろか。

そう考えると、今回の運賃改定で空港線加算運賃は100円程度にまで引き上げるべきではなかったのだろうか。

なお今回の運賃改定について国土交通省ではパブリックコメントを受け付けている

(2023.5.11 追記)なお羽田空港から都営線方面には空港連絡特殊割引を設定しており、羽田空港から都営線方面へは50円引き、羽田空港から成田空港へは80円引きとしていたが、今回の2023年10月1日運賃改定に合わせ全面廃止することとした。空港連絡特殊割引廃止に伴い運賃改定はこちら


結び

今回の2023年10月1日京急電鉄運賃改定では、普通運賃・通勤定期運賃で40km以内で値上げ、40km超で値下げを図ることにより増収を図ることとなった。

今後横浜駅での他社線乗り換え流動が減り品川までの通し利用を増やしていく京急電鉄でどのようなダイヤ改正を実施するのか、見守ってゆきたい。

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